「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

コーライトってこんな感じvol.6「コーライトの真の価値はディレクションにある!(前編)」

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こんにちは、作曲家のペンギンスです。


曲作りの要素=コーライトの役割一覧
1・メロディー、コードを考える(いわゆる狭義の作曲)

2・歌詞を考える(作詞)
3・トラックと呼ばれるビートや様々な楽器の演奏、打ち込み(編曲)
4・歌を歌う(いわゆる「仮歌」)
5・ビジョンを示し、全体の進行を管理し、上記1-4をまとめる(ディレクション)

 前回は仮歌についてお話ししました。今回はいよいよ最後の5番「ビジョンを示し、全体の進行を管理し、上記1-4をまとめる(ディレクション)」という役割についてお話ししたいと思います。なお、この話は非常に熱く語りたい箇所なので、前編後編にわけることをご了承ください。

 曲作りの要素はこれです、と上記の役割一覧で説明したときに、皆さんはひとつのことに気づいたのではないでしょうか。作詞、作曲、編曲、ボーカル。ここまでは「ひとりで普通に曲を作っていても当然必要なプロセス」です。しかし最後に「ディレクション」という謎の役割があります。これは「ひとりで普通に曲を作っていてもあまり登場しないプロセス」です。そう、実はこのディレクションという概念こそが、コーライトをコーライトたらしめているのです。コーライトが普通の曲作りと違うとすれば、その最大の違いはディレクションという概念の有無にあると言っても過言ではないでしょう。
 では、ディレクションとは一体何をすることなのでしょうか。ここで抽象論を重ねても話が入り口から前に進まないので、具体的に1曲を作る中で、ディレクションの役割を担うメンバーが何を言っているのかをご紹介しましょう。

「どのアーティストをターゲットにコーライトしよう?xxxはアルバムを出したばかりだし、チャンスが少なそう。yyyの次のシングル狙いはどうかな?ディレクターとも距離が近いから、良い曲ならチャンスはあるよ」
「どんな曲を作ろうか?トラックメーカーからは、The Chainsmokersみたいな曲を作りたいという意見が出ている。面白いね。でもそのままだと歌謡曲としてのサビのアツさみたいなものは全然足りないな。そこをトップライナーのメロディーで盛り上げる、そんな曲にしてみようか!」
「事務所のボスが月末にディレクターと会うと言ってるから、それを締め切りと考えよう。あと2週間か。仮歌はつかまるかな?気心の知れたいつものコーライトメンバーだから、トラック先行で急いで作ってもメロディーはちゃんと形になりそう。トラック、明後日くらいまでにお願いできる?」
「仮歌候補が2人。1人は歌唱力はまだまだだけどまだ10代で声が魅力的。もう1人は抜群の歌唱力を持つディーバ。今回は歌謡曲のアイドルだから、あまりに熱唱されてもイメージが違うね。あえて10代のシンガーに頼んでみようか。その代わり、立会いでレコーディングすることにして、しっかりディレクションしよう(=このディレクションはVocal Directionというまた別の意味です)」
「メロディーができあがった。悪くない。けどこれで本当にシングルになるか?頑張ったのはわかるけど、サビを作り直したほうがいいと思う。もう1回、もっと好き放題やってみて!」
「いいメロディーができた!これをさらに活かすための歌詞を書いてみよう。テーマは恋愛がいいと思うけど、それだけじゃコンペで埋もれてしまう。サビの頭にこんな意外なフレーズを持ってくるのはどう?それで書いてみてもらえない?」
「仮歌レコーディングに立ち会って、いいボーカルが録れた。でもやっぱり高音が苦手みたいで音程がかなり怪しい箇所もある。きっちりピッチ修正して、、、よし、メロディーの魅力が十分伝わるようになったぞ」
「いよいよ完成!だけど、あれ、ボーカルの音量が少し小さいな。・・・うん、The Chainsmokersのようなかっこいいトラックを活かしたい気持ちはわかる。だけどこのクライアントは歌謡曲のアイドルだ。一度騙されたと思って、思いっきりメインボーカルのフェーダーをあげてもらえない?・・・よーし最高の仕上がりだ!「完成!」ありがとう!」

 いかがでしょうか?いくつか気づいたことがあるのではないでしょうか。

・ディレクションは、曲作りの最初から最後まで、常に必要だ。
・ディレクションの対象は、曲作りのあらゆる部分に及ぶ。
・ディレクションの基準は、常にクライアントの要望だ。
・・・などなど。

 最初から最後まで、あらゆる部分で、クライアントのために何ができるか、その曲のために何ができるか考えて、コミュニケーションをとり、自分でも行動する。そう、コーライトのディレクションというのは、まさに「リーダーシップ」そのものなのだと思います。単なる管理(マネジメント)でもなく、意見を言う(評論家)でもなく、どんな時でも目の前でコーライトしている曲を好きになり、その曲がベストな仕上がりになるために、必要なことは全てやる。この姿勢そのものがディレクションなのだと思います。
 次回は、そんなコーライトの核であるディレクションをやってみるとぶつかる「ディレクションあるある」に触れながら、コーライトの素晴らしさ・難しさの話をちょっとできたらいいなと思います。そしてその章で「コーライトってこんな感じ」シリーズは終わり。それ以降は、コーライトの中で日々感じていることを徒然なるままに書いていこうと思っています(個人的には、ここまでの話は前提の説明に過ぎないので、早く徒然なるままに色々面白いことを書いていきたいですw)

 後編へつづく!

【次回予告】
次回は「コーライトってこんな感じvol.7」です。