「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

「アレンジャーの負担が大きすぎる」それって本当!?

こんばんは、作曲家のペンギンスです。

ありがたいことに並行していくつもご依頼、ご要望の締め切りを抱えております。じゃあブログ書くヒマあったら制作進めろよという話ではあるのですが笑、前回の「ディレクションってなんだろう、と改めて考える」が反響が大きかったので、ちょっと作業の合間に書いてみます。今回も、作家仲間の方からいただいた質問に対する回答という形式になります。

質問:

コーライト仲間から「アレンジャーの負担が大きすぎる気がする」という意見が出ました。それに関してご意見うかがえないでしょうか。

回答:

もしかしたら、コーライトを経験したことがある方から僕への質問・相談の中で、これが一番多い質問かもしれません。アレンジャーという言葉はトラックメーカーと言い換えてもよいでしょう。
対比するのは「トップライナー」。これはFD(ファーストデモ)と呼ばれるメロディーとコードのシンプルなデモを作ることで曲づくりの骨格をデザインする人ですね。旧来型の言葉でいうと、アレンジャー・トラックメーカーが「編曲」、トップライナーが「作曲」をするひとという感じです。
つまり、作曲よりも編曲のほうが大変そうで、申し訳ない、フェアではない感じがするという意図の質問かと思います。

この質問は多分トップライナー・アレンジャー両方から出てくる質問だと思うので、それぞれの立場にむけて回答します。

ざっくりいうと

「アレンジャーさん、あなたの負担は確かに大きいですが、効率化にトライしていますか。目的を意識して質の高い判断を下せるようになれば、仕事は速くなり、同時にクオリティーもあがりますよ。トップライナーも質の高い判断を連続してくださなければならず、思考量としては同じかそれ以上に大変ですよ」

いっぽうで

「トップライナーさん、あなたの仕事はそんなに楽なものでもないはずですよ。アレンジャーの負担が大きすぎるのではなく、あなたの負担が軽すぎるのではありませんか。作業を巻き取れと言っているのではありません。アレンジャーががんばってアレンジするのに見合う、本当にクオリティーの高い、価値あるFDを作れていますか」

といったところになります。

はい、僕がトップライナーなので、若干トップライナーに厳しいです笑

J-POPは洋楽と比べて展開が多く、楽器数、トラック数も多く、キメなどがあるためアレンジは複雑です。洋楽のようにかっこいいビート一発でその上にラップが乗って・・・という感じだと、ビートをかっこよく作れたら終わり、というある意味トラックのクリエイティビティ一発なところもあるわけですが、J-POPにおけるアレンジャーはどうしても純粋に作業としてみたときの労働量、拘束時間が作曲家と比べて比較的長くなるのは事実です。アニソンとか、特にそうですよね。
しかし、それでもなおアレンジャーの仕事が「いつもかならず高負担で作曲家より大変である」とは限りません。そもそもアレンジャーはアレンジごと採用になれば固定金額のギャラをもらえますし、努力を積み上げただけ成果が出やすい職種であると個人的には思っています。
いっぽうのトップライナーも、「いつもかならずアレンジャーより楽チンである、短い時間で大丈夫」なわけがないですよね?そもそもJ-POPにおいて、正直言って採用を決める要素の過半はトップライン(歌詞、メロ、全体の流れ)であると思っています。つまり、トップライナーって責任重大なんです。トップラインのミスは、トラックメーカーではリカバリできません。トラックメーカーの労力が報われるかどうかはトップライン次第なのです。それって、大変な仕事のはず、いろいろ試行錯誤して、時間を費やす時だってきっとありますよね。

 

なので、もしアレンジャーばかりが大変な思いをしているコーライトがあるとしたら、それはお互いにとってとても不幸なことだと思います。

 

「なんか自信ないけど、とりあえずメロとコードを書いて、トラックメーカーさんに投げたら、あとはサウンド的なことでそこそこかっこよくなるんじゃないか」と心のどこかで思っていませんか?断言しますが、絶対そんなことはないです。

 

トラックメーカーは、トップライナーの曲を完成させる手伝いをしているのではありません。それはコーライトではないし、だったらお金(アレンジ料)を払って手伝ってもらうのが筋です。コーライトなのだから、対等のクリエイター同士、お互いにお互いを必要としたい、ですよね!

トップライナーは曲の方向性を決定づける良いメロディー、的を得た着実なコード進行、時には一発でヒットを生み出すキラーな歌詞などを通じて、曲の「普遍的な価値」を高めていく。そしてトラックメーカーはメロディーの意図するところをしっかり汲み取って、メロディーが映えるようなリズムアレンジをしつつ、今の時代に合った、クライアントに受け入れられる曲にするためにサウンドやミックスの流行をしっかり押さえて「今ココで使える曲」に仕上げていく・・・そうやってお互いに協力しあって「お前、なかなかやるな」「そっちこそ」というナイスなチームワークを発揮することが、とても大切だと思います。

もちろん、ここに書いたことはFDからスタートする「メロディー先行型」のコーライトに限らず、トラックメーカーの作ったトラックからスタートする「トラック先行型」でも同じことが言えます。トラックメーカーが出発点を作るのは確かですが、先行するトラックという条件を活かしつつ、最大限に魅力的なメロディーをのせ「最終的なゴールに確実に到達させる」というのはとても大切なトップライナーの仕事です。

トップライナーがアレンジャーに気後れしたり、アレンジャーがトップライナーのフォローで疲弊したりするのは、健全なコーライトではないですよね。ひとりひとりが自分の長所をみがいて、他の人の長所と混ざり合ってケミストリーが生まれる。そんなコーライトのお誘いを是非まっています。