「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

得意なこと、好きなこと≠重要なこと

 こんにちは、作曲家のペンギンスです。猛暑がひと段落して急に秋らしくなってきましたね。案の定子供(2歳半)が風邪をひきました。皆様体にはお気をつけください。人間弱いときは弱いっす。
 「俺は体だけは丈夫だから」みたいなのが肉体的思い込みだとすると、音楽で落とし穴になりがちなのが心理的思い込みのほうですね。今日はタイトルにも書いたんですが、得意なことや好きなことは誰しも大事にしすぎて、それが客観的にみても重要なことだと勘違いしやすいという話をしたいと思います。まずは自分の失敗談から。

 僕は中学生のころから熱烈な「メロディーオタク」でした。J-POPや洋楽のヒット曲が大好きで、熱く感動したり格好良さに興奮したりするたびに、気に入った曲の気に入った箇所におけるメロディーとコードの関係を分析することにハマっていました。「メロディーは2音だけ、コードは3種類だけ。でもそのぶつけ方を工夫することで多彩な色彩感を出して飽きさせないんだ」とか「やっぱりルートに対して9thでロングトーンはカッコイイな、でも同じノートでもコードがサブドミナントになると6度でぶつける感じになる、同じノートが違った輝きを放つって素晴らしいな」とか。もうとにかく泣けるメロディー、かっこいいコード進行に夢中になっていました。
 こうなると、僕にとって音楽で一番重要なのはメロディーだ、ということになってきます。いや、今でもそう思ってるんですよ。ただそこに相対的な視点がなかったのが良くなかったなと今振り返ると思います。仮にメロディーが一番重要な要素だとしても、そもそもメロディーは音程だけではなくてリズムも関係してきますよね。メロのリズム、いわゆる「譜割り」の良し悪しも考えなければ不十分です。さらにメロディーが素晴らしくても、そのメロディーの何が良いのかを理解せずに適当な歌詞が適当な音のハメ方で乗ってしまったら魅力は半減します。さらに歌が下手だったらそもそも正しいメロディーが伝わりません。アレンジでギターのフレーズがメロディーにぶつかっていたら歌が聴こえません・・・。
 いかがでしょうか。得意なことや好きなことって、イコール重要なことだと思い込みがちなんですが、実際はそれって相対的なことなんですよね。特にコーライトしてコンペ向けに曲を作るときは、自分が得意なこと、好きなことがコーライトメンバーやクライアントにとっても重要なことなのか?と一度自問自答してみる必要があると思います。
 コーライトを始めたことで、僕はそれに気づくことができました。僕と同じようにメロディーを重視する人もいれば、歌い方のニュアンスや、歌詞のたった一言にこだわりぬく人もいる。そしてそういうこだわりはコーライトにとって決して筋違いなものではなくて、そのこだわりの結果で、グッと曲が魅力的に聴こえてきたりする。(それで採用に至った曲もあると思います)そこで僕はハッと気付きました。「そうか、メロディー作りが得意で、大好きなあまり、メロディーが重要なんだと思いすぎてたんだ」と。
 同様の思い込みは、ひとりひとりにあると思います。機材の扱いに熟練していて、ミックスが得意な人は、どうしても音質にこだわってしまいます。音の悪いデモを聴くとどうしてもバカにしてしまいます。でも・・・音質よりも重要なことがあるというのはみなさんもうわかりますよね。逆にシンガーソングライターや作詞家の方だと歌詞で言いたいことを言って自分の世界観を確立することに命を懸けているので、かえってクラブミュージック的な、シンプルなワンフレーズを繰り返して盛り上げることが出来なかったりします。得意なこと、好きなことが、いつの間にかコーライトやコンペにおいて重要なことの座を勝手に占めてしまっているんですね。
 「自分が得意だったり、好きだったり、長年やってきたからといって、それが目の前のコーライトやコンペで重要なことだとは全く限らない」。そう思うだけで、ずいぶん違う景色が見えてきて、音楽を作ることがまた楽しくなるんじゃないかなーと、僕は思っています。

 さらにこの考えを発展させると、音楽が得意で音楽が好きなあまり、音楽は重要なことなんだ、と思いすぎないように注意したほうがいいかもしれませんね。どうしても我々ミュージシャンは音楽を愛するあまり「NO MUSIC, NO LIFE!」を金科玉条みたいにとらえてしまい、世の中の人々がみんなこよなく音楽を愛しているかのような錯覚に陥ってしまいます。そうすると、最終的に音楽を聴くリスナーが音楽の細部まで丁寧に聴いてくれるはずだ、という根拠のない思い込みにすがることにもなりかねません。少数の音楽ファンの方には心からの感謝を表明しつつ、コンビニで有線から流れただけで、音楽にあまり興味のない人でも「あ、いいな」と思えるようなキャッチーさを常に目指していきたいと思います。それが僕にとっての、ポップミュージックの魅力ですし。

【次回予告】
次回は「インスピレーションをいつまで待つかのチキンレース」です。