「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

ワークスウェイの話をしようか -vol.1:他責NG

 こんばんは、作曲家のペンギンスです。
 コーライトに限らず音楽を作っているときって、誰しも頭の中に理想を描いているのではないでしょうか。例えば「こんな曲が作りたいなぁ」とか「こんなリズムで、こんな風にステージで盛り上がるんだぜ」とか。そういうなんとなくの完成のイメージが頭のなかにあって作り始めるんじゃないかなーと思います。「XXに提供して、ヒットさせるんだ」なんてのもいいイメージですね。今日のテーマである「他責NG」って言葉の説明は、じつはそんなところから始まります。
 他責NG。前回のエントリで説明した通り、これは僕が以前勤めていたITベンチャー企業「ワークスアプリケーションズ」の社員の行動規範のひとつです。全部で5つの項目は前回のエントリに書いた通りなので省略しますが、この「他責NG」という項目が飛び抜けて重要な最優先項目とされていました。なんででしょ?
 他責NGという言葉を文字通りで読むと「他を責めるのはダメよ」という風に読めますね。まぁ、間違いではないです。でもそれだけだと単純に「人の悪口言うな」とか「会社やお客さんの愚痴いうな」みたいなイメージで捉えられちゃうんですが、それも含みますがもっと深いことを言ってます。それが最初に書いた「理想」の話と繋がってくるんですね。

 つまりこういうことです。
 コーライトを始めました。最初にみんなで話し合い、こんな曲を作ろうぜ、という話で一致しました。ここでチームみんなの心の中に、(ある程度)共通した「こんな曲が作りたいなぁ」の気持ち、つまり「理想」ができてると思うんですね。他責NGというのはこの「最初に決めた目指すべき理想から逃げるな!」ということを言っているんです。
 理想が定まって、コーライトが進んでいきます。メロディーが出来ます。悪くないし、そこそこ面白い。ただ、「最高にキャッチーな曲を作ろう」という当初の理想があったとすると、そこには到達できてない。そんな時に・・・

・今回のコンペはもう時間がないから(時間「のせい」で出来ない)
・このトップライナーだとこれが限界かな(あいつ「のせい」で出来ない)
・他の曲も抱えてるし、この曲はこれでいいや(環境「のせい」で出来ない)

という風に、どうしても人は「できない理由」を探してしまいがちです。これが歌詞であっても同じです。最高にハマる歌詞が書けないときに・・・

・アーティストが書く歌詞にはかなわないから(立場「のせい」で出来ない)
・経験してないから書けない(経験「のせい」で出来ない)
・何を求めているかコンペシートからわからない(情報「のせい」で出来ない)

という感じで、いくらでも「できない理由」が探せるわけです。

 では、ここで「他責NG」の精神を発揮するとどうなるか?

・今回のコンペはもう時間がないから(時間「のせい」で出来ない)
→あと1時間でサビだけ直せないか?
 この曲を直すことで煮詰まってるなら、いっそゼロからサクッと作り直せば?
 逆転の発想で、今回のコンペは見送って、時間をかけて徹底的にこだわったほうが成果が出るのでは?(個人的に締め切りをズラすのはあまり好きなアプローチではありませんが・・・)

・このトップライナーだとこれが限界かな(あいつ「のせい」で出来ない)
→ちゃんとディレクションして書き直ししてもらったら良くなるのでは?
 てか、そこまで思うなら自分でメロディーを書いたほうがよいのでは?

・他の曲も抱えてるし、この曲はこれでいいや(環境「のせい」で出来ない)
→他の曲にまだ余裕があるなら、そちらを待ってもらってでもこの曲を直せば?
 もう1人コーライトインしてもらって、アイデアを貸してもらえば?

・・・いかがでしょうか。「できない理由」は必ず「できる理由」とセットになっているということがわかるのではないでしょうか?
 このように、理想をかかげて、それに向かって進んで行くときに「できない理由」が必ず登場します。他責NGというのはここで「できない理由」ひとつひとつを「できる理由」でつぶしていくということなんです。そうしたら「できない理由」はいつか消滅します。すると・・・理想の名曲が実現し、採用を勝ち取ることができるわけですね!
 もちろん、作曲家というのはライバルと仕事を奪い合う勝負の世界ですから、常に勝つなんてことはどんな大御所でもありえません。他責NGを徹底して、理想を実現しても、その描いていた理想が御門違いなものなら、クライアントには評価されません。そういう厳しい現実はありつつも、でも自分が描いた理想の音、理想の1曲に対して、できない理由を言い並べて諦めてしまうのではもったいないですよね。そんなときに「できない理由を並べる=何かのせいにする=他責」をやめる(NG)ことで、道が開けてくる。他責NGはそういうことを言っています。

 ちなみにこの心得を徹底すると、すべての問題を所与の条件ととらえ、自分の責任において解決しなければならないので、むちゃくちゃしんどいです。特にアーティストやミュージシャンとして自分の気持ちに正直に生きようとしている僕らからすると、意識的にこれをやるとちょっと苦しいかもしれません。なので個人的には「理想の音楽を作るために、こんなの当たり前だろ、と思って色々なことを遊び半分で夢中になって試していたら、気付いたら他責NGというマインドなんて言われなくても自然とクリアしてた」というのが良いのかなーなんておもっています。

 曲を作っているとき、頭の中で鳴っている理想の音。脳みそに電極を付けてそのままスピーカーから鳴らしたらさぞかし気持ちいいだろうに、と思うことがよくあります。それがまさに他責NGの実現した世界かもしれません。それは夢物語であっても、妥協せずに理想を実現しようとする気持ちは大事です。他責NG、ちょっと心にとめておいていただけたらとても嬉しいです。

【次回予告】
次回は「ワークスウェイの話をしようか -vol.2:なぜなぜ思考」です。

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