こんにちは、作曲家のペンギンスです。
作曲家にもいろいろなタイプがいますが、ぼくは結構理屈っぽいタイプなのではないかと思います。見ての通りブログを書くのも好きで、どちらかというと作曲するのと同じくらい、作曲について考えることも好き、という研究者タイプの一面もあります笑 そんな僕ですので、先日TwitterでSoundquestさんのこんなツイートを見かけて、大興奮でした。
「声域区分法」の改修のときJ-Popをディグってて思ったんですが、丸サ進行みたくIVとvi主体でIが目立たなくマイナー寄りのコード進行に対して、メロディはメジャーの方の主音(つまりド)への終止に偏って、ラはソやドへと流して主権を持たせないというのがかなり強固なフォーマットとしてある気がします
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
Soundquestさんは以前も当ブログの音楽理論に関する過去記事で紹介したことがあるのですが、既存の音楽理論を、現代のポップス事情にあわせて実践的に再構築するという非常に意欲的な試みを続けていらっしゃるかたです。なので僕もかねてより注目しており、Twitterもフォローして日頃から追いかけていたのですが、そんななかでこのツイートには特に心を惹かれました。
「丸サ進行」みたく、と言われているのは椎名林檎の「丸の内サディスティック」みたいなコード進行、ということかと思います。Key=CでFmaj7-E7-Am-Gm7-C7という、いわゆる「Just the Two of Us進行」と言われているものですね。私もペンギンスTIPSシリーズVol.3の教材用記事でこのコード進行を取り上げています。
上記ツイートのなににそんなに興奮したかというと「マイナー寄りのコード進行」「メジャーの方の終止に偏ったメロディ」という2点を並列に論じているところなんですね。僕は日頃から「J-POPというのは西洋音楽とアジア人としての日本人の伝統的な音楽アイデンティティとの間で引き裂かれそうになりながら必死にバランスをとっている音楽だ」というふうに思っているのですが、このようにコード進行とメロディーが乖離する、分離する感じというのは、その結果として生まれたものなのではないか、と言うふうに思うのです。
Soundquestさんはさらに続けます。
すごい単純に言うと、コードの骨は短調、メロディの骨は長調という乖離。それで長調と短調の真ん中を作る。
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
そしてコードは積極的にソ♯・シ♭を入れるが、メロディはひたすらダイアトニックというもうひとつの乖離で、層をさらにはがす。
コードの骨、メロディの骨、という言葉が、興奮しますね・・・以前にもこのブログでとりあげた、僕の座右の書である「楕円とガイコツ」を彷彿とさせる表現です。コード側ではノンダイアトニックコードなども使いつつ短調の世界観の中で動く。メロ側はダイアトニックで長調の世界観で動く。これをぶつけたものが現代J-POPである、と。なるほどなるほど。
マクロでいえば調性が分断するということだし、ミクロでいえば、和声と旋律で軸が3度ずれているおかげで、なんとなくでやっても3rdや7thのシェルが確率的に生まれやすくなる。もちろんソ♯とソが偶発的に作る濁りの恩恵もある
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
これはさながら、ブラックボックス化された「いい感じの音楽生産システム」。拡張性は少ないけど、再生産性が高い。少量の情報で再現できるからかんたんに伝播する。
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
Soundquestさんのものの見方で共感するのは、このツイートのように「曲をつくる立場として、この考え方にどういう恩恵があるか」という視点があるところなんですね。こんな曲が作れるようになる、こんな良さが曲に生まれる、という視点は、実作者として非常にためになります。
これもしマックスで続くと何が起こるかというと、III7の上でラが鳴る、Vm7-I7の上でシ♮が鳴るといった事態への遭遇率が自動的に上がっていって、最終的に我々の耳が短2度への耐性を獲得していく未来線があります
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
クゥゥゥゥゥゥー!興奮しますね!
「リスナーがどんな音楽を良しとするか、どんな響きを好むか」という「前提」そのものが進化論的に変化していくという仮説は知的好奇心をマックスくすぐってくれます。こういう考え方を持ちながら日々、作曲したい!
マックスでロマンティックな見方をすると、600年前ヨーロッパで島国イギリスが3度のハーモニーを独自に発展させて後に大陸側に多大な影響を与えたのと同じことがいま島国日本で起きているかもしれない とも見れます。
— SoundQuest (@soundquest_jp) 2021年10月28日
ヌォォォォォォォォー!!!(落ち着け
こうして、地理と歴史と数学と建築と恋愛を一体化させることができるのが!音楽のロマンティックな素晴らしいところですよね!音楽を聴く、作るだけで、遠い異国や、はるか昔の人々の感情に、論理でもって直結することができる。そして建築のように人々の役に立つことができ、恋愛のように人々を感動させることができる。
音楽って最高ですね。
ということをどうしても伝えたくてSoundquestさんの考察ツイートをたくさん紹介させていただきました。なお、上記のツイートは一連のツリーになっているものですが、途中省略したツイートもいくつかあります。最初に紹介したツイートからの流れでたどって読むことでSoundquestさんの本意になると思いますので、是非Twitterでお読みください。そして是非Soundquestさんをフォローしてみてください!