こんばんは、作曲家のペンギンスです。
今日は長いです。そして保存版です。
作曲家で、仮歌さんに発注の機会がある方は、ぜひブックマークしてください笑
今回はブログという読み物というよりは、アーカイブすべきナレッジという感じなので、おりにふれてこのページに見にきてくれたら嬉しいです。
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この仕事をしているとよくお世話になるのが「仮歌さん」です。簡単にいうと歌手・シンガーの方ですね。我々J-POPの作曲家は時にコンペ形式で、また時には直接のご指名を頂いたりして曲を作り、プロデューサー・ディレクターの方に対して「こんな曲、どうっすか?」と提出するわけです。その時に、歌詞のテキストと楽器でメロディーを弾いたdemoでは、やはり完成した音楽という印象を持ってもらうことは難しいですよね。そこで、アーティスト本人の代わりに、その曲を最大限に魅力的に聴かせるために、仮で歌を入れます。仮の歌だから「仮歌」。それを歌ってくれる方が通称「仮歌さん」です。作曲家の中には歌手として活躍されてる方もいるので、そういった方は自分で歌うという必殺技があるのですが、僕のように歌の才能に恵まれない場合wとか、そもそも自分と違う性別の歌の場合、仮歌さんにお願いすることになります。
さて、「仮」なんて漢字が入っていますが、全然安易なものではありません。何しろ、作詞(=歌詞)も作曲(=メロディー)も、その仕事は歌声を通じてはじめて人に届くもの。つまり僕らの仕事は仮歌さんなしでは何も伝わらないのです。そんな必要不可欠な存在だからこそ、歌がうまい人に頼みます。あんまり大きな声じゃ言えませんが絶対このアイドルの子よりも、仮歌さんのほうがうまいよな・・・みたいなこともありますw。もちろんうまいことに加えて「そのアーティスト(アイドル)っぽく聴こえる」ことも大事ですね。いくら歌がうまくても熱唱ソウルフルな方にアイドルの仮歌は頼めませんし、逆にすごくフレッシュでかわいい声の人に憂鬱なアーティストの仮歌も頼めません。適材適所で判断しつつ、「この曲を、誰それというアーティスト(アイドル)のために作っているので、歌ってください」と依頼をすることになります。
さあ、いよいよ本題です。
仮歌さんをインターネットで探したり(仕事依頼サイト「ココナラ」など)、知人のツテをたどって探したりして、「仮歌を歌ってください」と依頼、つまり発注をすることになります。ところが・・・この発注作業が意外と難しいんですよね。それに手間もかかります。作詞作曲と順調に進んでも、結構この発注作業に時間をとられることもあります。でも、それも当然。なぜならこれはとても大切な作業だからです。
というわけで、今日はこの「仮歌発注」についてブログにまとめてみました。
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【仮歌発注でそもそも心がけたいこと】
これは大きく2点あります。
1「こっちも仕事、向こうも仕事」
仮歌さんには所定のギャラを支払って歌ってもらうので、発注する側はついお客様気分になってしまいがちです。しかし、こちらもプロの作曲家(あるいは、それを目指していたり)、向こうも、プロの歌手。プロとプロ同士なのだから、仕事の関係・・・ですよね?
それならば、常にコミュニケーションは正確かつ丁寧に、明るく行いたいですよね。相手が気持ちよく仮歌を引き受けてくれるような、そして、気持ちよくすばらしい歌が歌えるような、そんな発注の仕方をすることが大切です。「これで普通、わかるでしょ」は禁物。相手に伝わるような曖昧さのない具体的な依頼が必要です。
2「仮歌さんは、あなたとは違う別の人間だ」
あたりまえやん!という感じですが、けっこう大切です。というのも、「この曲を歌う時はこういう風に歌うだろう」「このフレーズはこういう風に歌うだろう」というイメージが、自分と相手ではぜんぜん違っていることもよくあるからです。「明日」と書いてあって「あす」と歌うか「あした」と歌うか。クライマックスの高音のロングトーンを、地声でいくかファルセット(裏声)でいくか。ほら、色々と「伝わってるつもり」になりそうでしょう?相手はあなたとは違う別の人間なのだから、丁寧に仕事内容を説明することはとても大切です。
【仮歌さんは何が困るのだろう?】
僕も男女何人も「長年頼んでいる常連の仮歌さん」がいます。そういう人と話をしていて一番なるほどな、と思うのは「歌うこと以外にエネルギーを取られる依頼が一番困る」ということです。どういうことか?
なんども頼んでいる仮歌さんは、いずれも実力があって、しかも一発でOKを出せる仕事の速い人たちばかりです。凄腕の人になると依頼のメールを送ったら1コーラスのdemoであれば1時間もしないうちにメインボーカルのみならずハモりやダブルテイク(同じものを2度歌う)、さらには掛け声なんかも収録して合計10本くらいのテイクを送り返してきてくれます。すげえ速いwww
となると、こういう優秀な人たちにとって一番嫌なのは「何がしたいんだかわからない不明確な指示の解釈に時間をとられる」「データに不足があってメールで再依頼をする」「データがおかしくて(詳細は後述)、自分の手元でデータを直してから歌う」といった手間です。1時間で終わる仕事なのに、確認して、整理して、ため息をついてから歌って、合計2時間かかるとしたら・・・同じギャラでも、時給、半分になっちゃいますよね?そういうデータを送ってくる人の仕事を、受けたいと思いますか?
ですから僕たちは「データを受け取ったら、すぐに迷わず仕事内容を理解して歌いはじめることができるデータ」を送る必要があるのです。
【では、どうすれば大丈夫?】
ここからは、より具体的な話になります。まず基本方針から書いていきたいと思います。
「言葉(説明)よりも実物(ファイル)で語れ」
テキストファイルに文章を書いて説明することも、もちろん必要です。しかし、それ以上に大切なのは、「説明されなくてもわかるような、わかりやすいデータを送る」ことです。例えば歌詞カードとカラオケだけ送って、メロディーはMIDIデータを送るだけ、では、メロディーに歌詞をどう乗せていいのかを、いちいち確認・考えながら歌うことになり、とてつもない手間がかかりますよね。それを文章で「ここは 「あい・し・てい・る」 です」とか書いて送られても、正直困りますよね。そうではなくて、実際に自分で歌ったもの、それもカラオケとは別に単独で歌だけのファイル(パラデータ)を送れば、とても親切です。言葉で説明しなければならないのだとしたら、それはデータに何か不親切がある可能性が高いです。綺麗なデータに、わかりやすいファイル名がついていれば、究極ひとことも説明しなくても何をすればよいか一発で伝わります。丁寧に発注データをまとめましょう!
【具体的な注意事項メモ】
では、具体的な発注の際の注意事項をみていきましょう。
★必要なものと、それぞれ作成の際の注意事項★
[絶対必要、ないとかありえない]
◆インスト(カラオケ)ファイル
そりゃもう絶対必要ですよね笑。歌を歌ってもらうのだから、インスト(カラオケ)用意しましょう!
ポイントは
・wav形式で送る。mp3は書き出し位置に微妙なズレがあるのと、音質がよくないので、レコーディングには不向き。
・ファイル名にBPM(テンポ)が入っていると、取り込んだときにすぐDAWのBPMをあわせられるので便利。
・いわゆる「音圧」をあげすぎないほうがよいです。仮歌さんが手元で必要に応じてボリュームを調整できるはずなので、ちいさすぎない適度な音量で書き出しましょう。
◆仮仮歌ファイル
これの重要性をわかってない人がおおい!仮歌さんはこれ聴いて歌います!これが基準になるんです!
ポイントは
・wav形式で送る。mp3のデメリットは前述のとおり。基本的に「聴くためのファイルはmp3で、作業するためのファイルは全部wav」と考えるとわかりやすいです。
・メインボーカル以外に、掛け声(Hey!とか)やコーラス(ウーウー)などが入っていたら、それらもちゃんと仮仮歌を用意する。Hey!にも無限のHey!があります。どんなHey!がほしいのか、ちゃんと歌って伝えましょう。ウーウー、といったコーラス(いわゆるウーハモ)も、「ハァァァ」とか「ウー、フーゥ」とか、色々ありますよね?ちゃんと歌って伝えましょう。
・いっぽうで、字ハモと呼ばれるメインボーカルと同じフレーズを、違う音程で重ねるものは、仮仮歌は不要です。メインさえあれば、音程を変えたものはシンセメロが用意されていれば十分です。
・仮仮歌ですが・・・真剣に歌ってください。いやマジで。恥ずかしがってるそこのあなた。自分で恥ずかしくて歌えないレベルのものを、仮歌さんに歌ってもらうっておかしくないですか?(太字下線付きで熱弁) 人に歌ってもらうなら、自信を持って自分で歌えるものを発注しましょう!
ちなみに、女性に仮歌を歌ってもらう場合ですが、僕は男性なので、1オクターブ下で歌います。無理して女性の音域を歌うとひどいクオリティーになって肝心の仮仮歌として伝えたいニュアンスとかが伝わらないし、わざわざ低く歌ったものをメロダインで持ち上げるのも手間だし、これまたニュアンスが伝わりません。女性仮歌さんによると、男性は無理せず1オクターブ下で、堂々と男として歌ってもらったほうが、何をすればよいかすぐ伝わるそうです。
あと、女性の作曲家さんが、女性の仮歌さんに発注する場合が結構落とし穴だそうでして・・・恥ずかしがって小さな声で歌っていて、どういう歌い方をすればいいのか誤解をうむケースがあるようです。熱唱してほしいなら、仮仮歌も熱唱しましょう。歌詞をはっきりと伝える歌い方が欲しいなら、自分がまずはっきり歌いましょう。
ロングトーンの場所や、短く切る場所など、正確に歌ってあげましょう。シンセメロと仮仮歌で、長さが揃っているのがよいです。
◆メロディーのシンセメロを単体で書き出したもの
これはわかりやすいですね。メロディーだけをシンセメロで鳴らしたものを単体で送るということです。この音程の通り歌えばいい、ってことですね。ただし、注意点が3つ。
1・メロディーの長さ(duration)も、歌って欲しい長さに揃える
これは意外と気を使っていない人が多いです。例えば「愛してるぅぅぅぅx」とロングトーンでのばしてほしいのにシンセメロが「ミレドレソ(ブツッ」と切れてたら、仮歌さんはのばしてくれません。「普通、わかるでしょ」じゃないんです。「そういう歌だとわかっているのは、あなただけ」。仮歌さんがパッと聴いたときに、なるほど、ここまで伸ばすのね、とすぐわかる。そういうデータにしましょう。
2・メロディーの音色は、長さがききとりやすい持続音(ピーーーーとか)にする
これも前提として大事です!音色には次第に小さくなる減衰音(ピアノやシンバル)と、音量が変わらない持続音(オルガンやバイオリン等)がありますが、人間の声は後者なので、長さがよくわかる音色にする必要があります。
3・メロディーの音色は、その曲で使われている楽器以外の音にする。基本的にはいつも同じシンセの音を使うのがおすすめ
これも、親切心ですね。例えば曲の中でオルガンが使われている曲で、シンセメロの音色が、オルガンだったら?混ざってしまってとてもききとりにくいですよね。なので、仮歌発注のときのガイドメロは、その曲で使われていない音にするのが親切です。私の場合、いつも同じシンセの同じ音で発注しています。ピーーーーみたいな音で、普通に曲の中ではダサくて使わないだろうな・・・という感じの音です笑
◆ハモりがあれば、すべてのハモりのラインをそれぞれ単体で書き出したもの
ハモりのラインを、上ハモ(メロディーより上につけるハモ)、下ハモ(同じく下につけるハモ)など、ライン別にシンセメロで送ってあげましょう。
なお、これは発注云々ではなくてめちゃくちゃ音楽的な話になりますが、、、ハモりは必要な箇所にだけつけましょう。いやマジで。どうも最初から最後まで全部ハモりがついてるみたいな発注がたまにあるそうで・・・いや、ハモりをどこにつけるかは、非常に音楽的なセンスの問われる「アレンジの一部」ですよね?ちゃんとメリハリつけて、そのアーティスト(アイドル)の過去曲など参考にしつつ、「らしい」コーラスアレンジしましょう!全部ハモりがついてるだけで「こいつセンスないな」ってなりますし、仮歌さんも仕事量倍増するし、その分ギャラも高くなります笑
ちなみにハモりのラインの作り方ですが、2つおさえておくと良い感じになります。
1.ハモりは、メインのコピペで作る。これは楽をするだけでなく、メインと完全にリズムが揃うという音楽的利点もあります。なお、DAW上で見たときにひとめでハモりの様子がわかるように、メインとはvelocityを変えておいたりすると、それぞれのラインが色で区別できて最高ですね・・・ムフフ。
2.ハモりは、役割別にラインをわけておく。例えばサビだけしかない上ハモと、イントロにしかないウーハモがあるからといって、ひとつのラインに一緒にいれて発注は、しないほうが良いです。理由は、発注側も受け取る側も一目で全体が把握しづらくなり作業ミスにつながるのと、最終的に曲を仕上げるミックスの時に、だいたい違う役割のハモりは違うミックス処理をすることになるので、わけておいたほうが作業が楽だし、これまたミスも減るからです。もっとも、仮歌さんによっては単純計算で依頼の本数でオプション金額を決める人もいるので、まあ・・・なるべく発注本数を減らしたほうが経済的である場合もあるのは否定しません。
◆歌詞のテキスト(WordやPDFでもOK)
当たり前ですね笑 歌詞を文字で送りましょう!ちなみに僕は誤解をまねきそうな読み方がある場合はふりがなを()でふることにしています。「明日(あす)の笑顔を見に行(ゆ)こう」「明日(あした)はきっと会いに行(い)ける」みたいな感じです。英語は、カタカナ英語のほうが良い場合と、ネイティブ発音でかっこよくいきたい場合と、両方の事情があるので、これは文章で説明しつつ、カリカリうたで、自分もちゃんと歌ってほしいように発音します笑
◆ディレクションシート(テキストやWord、PDFなど)
文章で必要事項を説明します!ファイルを受け取ればわかるのが理想ですが、説明もやっぱり必要です。
曲のタイトル
ターゲット(誰向けに提案するのか、グループ名やアーティストの名前を、差し支えない範囲で)
BPM(ファイル名にもつけますが、わからないと作業できないので大事なので)
key(まあ一応)
全体の歌い方(「アイドルらしくさわやかに」とか「実力派シンガーなので思いっきりかっこよく」といった程度でよいと思います。いくら言葉を重ねて歌い方を指定しても、あまり良い結果になる経験がないです。言葉で歌い方を指定するくらいなら自分で仮仮歌で表現するべきだし、そもそも歌い方を指定しなくても想像がつくような、イメージが鮮やかに浮かぶ曲を作詞・作曲するべきと思います。)
個別の箇所の注意事項(これはどうしてもあります。「Oh Yeah」はニヤリと笑う感じで、とか「さよなら」は泣きそうな感じで、とか、必要に応じて指定を言葉にすることはあってよいと思います)
あと、地声と裏声の指定が必要な箇所(高音など)は指定があるとなお良いです!すぐに裏声いっちゃうくせのある人とかには「ここは突き抜けるような強さがほしいので、地声で張ってください」とか言ってあげたほうがよいですね。
[あると親切]
◆クリックファイル
曲の途中でテンポが変わる場合などは、特に送ってあげたほうが良いです。
テンポが変わる場合は、文章での説明も必要と思います。
◆メロディーのMIDIファイル
シンガーさんが手慣れている場合などは、MIDIファイルのピアノロールを見たりできるし、便利と思います。
◆仮仮歌とカラオケをmixしたもの
◆シンセメロとカラオケをmixしたもの
これらは練習用で欲しいという声もあるので、僕は入れます。不要と言われる方もいますが、入れます笑
なお、昔は譜面を送るのが定番だったようですが、近年譜面はどんどん不要になりつつあります。これは譜面よりも耳で仮仮歌を聴いて歌ったほうが効率的であるということと、譜面には表せないRapや、Rapに近い少しピッチを揺らしたような表現などが急速にポップ・ミュージックに増えており、譜面の意味がなくなりつつあることも一因です。特に向こうから指定がない限りは譜面は不要ですし、逆に譜面だけ送って仮仮歌を送らないのは、今やかなり不親切かと思います。
【その他注意事項】
「データの頭」は揃えましょう!
これは、「あなたが仮歌さんに送るデータは、すべてDAWの1小節目の1拍目に配置したときに、うしろの位置が綺麗に揃っていなければならない」ということです。「これは1小節うしろからなんです」とかそういうのはやめてください。それ、事情がわかるのは作曲者本人であるあなただけ。仮歌さんは混乱し、データ整理に余計な時間をとられます。他人とはそういうものです。
このことからもいえるのですが、究極に大事なことがひとつあるので最後につけたしておきます。
「自分が送るデータは送る前にチェックしよう!!!!!!!!!」
送る前に一度聴いてください。DAWに取り込んで、目で見てください。私は毎回どんなに時間がなくても発注データを全部DAWに再度取り込んで、波形を見て(音が大きすぎる、小さすぎる、位置がずれている、無音である等に気づける)、音を(さすがに一部だけですが)鳴らして、おかしな書き出しエラーなどがないかチェックしてから発注しています。仕事相手に、道具を渡すのだから、当然だと思います。
なんでも渡す前にチェックしましょう・・・まじで・・・
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いかがでしたでしょうか?いや、随分長い文章になってしまいました。最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。仮歌は歌詞やメロディーを伝えるための大事な手段。仮歌さんはその大事な仕事を果たすプロ。大切なパートナーです。末長く付き合っていくためにも、お互いに気持ちよく仕事するためにも、親切なデータのやりとりを心がけましょう!