「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

作曲家が仮歌さんに求めること

こんにちは、作曲家のペンギンスです。

先日の仮歌発注の注意点まとめが大変反響が大きかったです。作曲家が注意しないと、仮歌さんは大変な思いをするんですよね・・・。作曲家のみなさん、気をつけましょう!

いっぽうで、仮歌さんが歌ってくれたテイクを受け取って頭を抱えるという経験も、作曲家のみなさんはままあるのではないでしょうか。今日は逆に、作曲家が仮歌さんの歌に求めること、という切り口でいろいろ考えてみたいと思います。

作曲家が仮歌さんに求めること

1.声が出てること

んなあほな、という感じですがまずはこれです。なぜならしっかりと声が出ていればそこからある程度のエディット(ピッチ・リズム等)をしたり、何らかのミックス・演出をほどこすことは可能ですが、出てない声は作れないからです。気持ちよく腹から声が出てて、歌詞が聞き取れる・・・基本ですが常に忘れてほしくない点ですね。
これ、ウィスパーが欲しいですとか、シャウトが欲しいですとかの時も例外ではなくて、ウィスパーであっても確実に「出てて」ほしいです。先ほども書きましたがしっかりと声が出ていればどんな小さいウィスパーであってもいくらでも増幅できますが、出てない声はボリュームあげられないので・・・。シャウトもそうですね、歌詞(シャウトの内容)はさすがに聴こえたいな、と思います。

2.いい声であること

あいまいな、という感じですが次はこれです。これも1番と一緒で「あとから作れない」からです。いい声かどうかは主観もあるので2番目にしましたが、魅力的な声で歌われると曲は何倍にも魅力的に聴こえますので、ぜひいい声の方に出会いたいなと、いつも思っています。
なお、勘の鋭い方はお気づきかと思いますが、どんな声が「いい声」なのかは、案件によって異なります。アイドルならば男女問わず若くてフレッシュな声、いわゆるディーバ系ならばとにかく本当にうまい人。個性的なシンガーならその声に(ある程度)自然に似ている声が好ましいですね。なので「いい声であること」すなわち、「案件に合った、ターゲットのアーティスト(アイドル)らしい声」ということですね。

3.リズムが正確であること

このへんから具体的な要素が強くなってきますね。歌のリズム感はとても重要です。個人的な所感ですが、滑舌が良いということも(ある意味)この「リズム」に含まれるかもなーと思います。リズムが正確だと、歌詞は伝わりやすいし、メロディーも当然、意図どおり気持ちよく聴こえますね。
なお、ピッチとリズムだと断然、リズムを優先してほしいです(もちろん両方よくなきゃだめですが)。これは音楽の本質としてリズムのほうがより揃っていて欲しいというのもあるし、現実的な事情としてMelodyneではリズムよりもピッチのほうがまだ修正しやすいと思います。
それからこれは個人的な基準なのですが、「ハネもの(スウィングしているリズム)をうまく歌えない人はちょっと・・・」という気持ちがあります。これ、歌がうまい・へたとはちょっと別で、まれに一定確率で「スウィングができない人」というのが存在します。そういう人にハネてる曲を間違えて発注してしまうと、根本のリズム感がスクエアなので、すべてのテイクがまったく使えません。直す直さないの問題ではないんです。これは別の人に発注をやり直すっことになり、相当のトラウマになるので、僕は過去ハネてる曲が歌えなかったために疎遠になってしまった仮歌さんもいます。まあ、今そういう方に出会うことも減りましたが、僕の曲がハネものが結構あることもあり、個人的にはとても重要視しています。

 

4.ピッチが正確であること

これは、やはり大事です。Melodyneでかなり直すことができるので、優先順位はあえて下げましたが、ピッチが正確な歌がやっぱり一番気持ちいいものですよね。多分ピッチに関しては皆さんもちろん意識して歌ってくださっているとは思うのですが、何人かの方がおっしゃっていたのが、「自分でDAWの画面で自分の歌を修正するようになったら癖に気づいてより正確に歌えるようになった」ということ。これはなるほどなと思います。僕も仮歌さんの歌をMelodyneで直しながら「おお、XXさん名物の下から当てる感じだな笑」とか「YYさんはまたちょい上で浮遊してるな笑」とかいつも個性を感じながら作業しています笑。それを自分の歌に対して感じることで、目で見て客観視ができるというのは、確かにシンガーの大きな成長になるかもしれませんね。

5.人間味があること

これは3番(リズム)や4番(ピッチ)と決して矛盾するものではないです。「自然に歌えていること」と言い換えてもいいかもしれません。メロディーを書いた側が無意識に期待している「このあたりで強く歌う」「このあたりで抜いて歌う」という音楽の起伏のようなものをくみとってくれるかたは男女問わずとてもありがたいです。ディレクションとして書いて指示するべき内容とも言えるのですが、そうはいっても何から何まで感情を指定するのもお互いにとって面倒なものです。ある程度歌うシンガーご本人の感覚を信じて委ねることで、良い歌を引き出したいという気持ちもあるので、そこが任せられるかただと心強いです。

6.とっつきやすいこと笑

大事ですよ!!!笑 仮歌さんも受注するとき色々緊張とかストレスもあるとは思うんですが、発注するこちら(作曲家)も何かと気を遣いながら発注はしています。「短納期になっちゃって、申し訳ない」「今忙しいかな」「最近体調悪いのかな、大丈夫かな」とか考えながらメールを送ります笑。なのでどんなときでも早めのレスで元気に返事がかえってくると、たとえそのときスケジュールNGでうけていただけなかったとしても「ああ、また困った時には声かけよう」と思うことができます。


7.録り音が綺麗で加工されておらず扱いやすいこと

歌が良くても、肝心の録音されたテイクが以下のような状態だと、ちょっと困ってしまいます。

・入力レベル(波形の大きさ)が小さ過ぎて、S/N比(ノイズの比率)が大きく、音質が悪い
・入力レベルが逆に大き過ぎて、割れてしまっている(デジタルクリップ)
・コンプレッサー等のエフェクターがかけっぱなしの「かけ録り」状態になっていて、あとから取り除くことができない

上から順に。まず入力が小さいというのは波形をみればわかります。DAWの画面で見て、拡大しないとみえないくらいに波形が小さい場合は、入力レベルが小さすぎることが考えられますので、インターフェース等である程度入力レベルをあげてください。逆に入力レベルが大き過ぎというのも困ります。判断基準としては、やはりどうしても生歌は瞬間的にピークが来るときもあるので、サビで一番声を張る箇所でも、波形はDAWの画面でトラックの波形表示の半分くらいのところで抑えておいていただくと非常にありがたいです。(僕も昔気づかなかったのですが、波形上ではみ出していなくてもクリップしていることはあります。入力レベルが大きいほうが音質がよくなる、というのは確かにその通りなのですが、実務上ではデジタルクリップで全テイクとりなおしになることのリスク、手間を考えると、ある程度入力レベルには余裕をもっておいていただきたいなという感じです。(ノイズは収録環境により左右されることのほうが大きいので・・・)
かけ録りについては、仮歌仕事に慣れていないかただったりすると、無意識のうちにオーディオインターフェース側でオートコンプ的なものがかかる状態でお仕事をされてる方もいらっしゃるようなので、お気をつけください。(ナレーションや配信などをメインにされてる方だと、その設定がむしろ良かったりすることもあるようなので、音楽の仮歌の仕事をされる際にお気をつけください)

いかがでしたでしょうか。音楽的なこと、そうでないこと、いろいろと申し上げましたが、仮歌さんが歌ってくれないと作曲家の描いた音楽は世に出ないことはまぎれもない事実です。感謝しております。

仮歌のみなさん、どうぞこれからもよろしくお願いします!

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