「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

リファレンスという考え方

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こんにちは、作曲家のペンギンスです。

 コーライトをしていると、よく「リファレンス」という言葉を耳にします。これは言葉の通り「参考にするもの」といった感じの意味なのですが、これが頼もしくもあり、厄介でもあり・・・という存在なんですね。

 コーライトをスタートさせる時、多くの場合まず最初にメンバーでターゲットを決めます。「ソロシンガーのxxxが曲を募集しているらしいから、そこに提案するために曲を作ろう」という感じですね。さて、どんな曲を作ろうか?・・・リファレンスは、その段階から会話に登場します。「最新のシングルはロックを基本に、スケール感がありつつもダンスミュージックっぽい要素もあったから、ColdplayのViva La Vidaをリファにしない?」「いいと思うけど、次のシングルを狙うとなると最新のシングルと同じ方向性で良いのかな?もっとEd Sheeranみたいなアコギをフィーチャーしたサウンドのほうが俺らも得意だし、そっちにしない?」みたいな会話が交わされるわけですね。リファレンスって何?という話はこれでだいたいわかっていただけたかと思います。こういった全体の方向性の話だけではなく、「サビ前にかっこいいフィルがほしいんだけど、なんかいいリファないかな?」「この曲に登場するフィルがかっこいいよ。こんな風にしてみたら?」といった部分的なヒントという意味でもリファレンスは登場します。

 この「ディレクションの手段としてリファレンスを持ち出してコミュニケーションする」ということを、どうとらえれば良いのか?というのが今日の本題です。けっこう耳にするのが「参考にする曲を指定して発注とか作曲家を馬鹿にしている」とか「自分で参考にする曲を決めるとか、安易すぎるだろ」という誤解です。これは申し訳ないのだけどいわゆる「オリジナル幻想」かな、と思います。もちろん、何かをまるごと拝借することは論外としても、曲を作るときには先人が築き上げてきた何百キロメートルもある音楽の大河を、1メートルだけ先に延ばすような感じで、根っこを探すような感じでリファレンスを探すことは必要なことだと思います。むしろ、完全なオリジナルを作ろうとしたほうが、かえって自分の中のいわゆる「手グセ」や「好きな音楽」に引っ張られて、新しいものが作れないというのが実感です。
 このように曲作りでリファレンスを探すというのは一般的にも必要なことなのですが、コーライトでは、ひとりで作るときと比べてリファレンスの重要性が飛躍的に高まります。勘のいい方はもうお気づきかとは思いますが、複数のクリエイターが共同作業するときに、どこを目指しているのかの具体的な指標としてリファレンスが欠かせません。「ロックなサウンドにストリングスが融合したものを作ろう」と言葉で意見が一致したとしても、ひとりはビートルズの「Long and Winding Road」を想像しているかもしれませんし、もう一人はClariSの「コネクト」を想像しているかもしれません。何度コーライトしても難しいなと思うのですが、言葉で音を表現したときに伝わるイメージって、本当にびっくりするぐらい人によって解釈が異なります。だとしたら全員が同じ曲をリファレンスとして持つことで、コーライトはぐっとやりやすくなる、というのはご理解いただけるかと思います。
 もちろんここには2つ忘れてはいけないことがあります。ひとつは「リファレンスに辿りついただけではオリジナリティがないから、リファレンスを超えることが絶対必要」ということ。山登りでいうとリファレンスは五合目の山小屋みたいなもの。そこで全員が集合しないといけないから待ち合わせ場所として指定するけど、山の頂上へは自分で登っていかないといけないというレベルの話だと思います。もうひとつは「リファレンスを指定しても、それでもイメージがずれることがある」ということ。僕の経験の中だと、ずいぶん前になりますがある曲をリファとして指定したとき、僕は「マーチングのリズムを取り入れたドラムのアレンジ」を参考にしてほしかったのに、相手は「そのドラムの上で鳴っている歪んだパワーコードのカッティング」を参考にする、と伝わってしまったことがありました。こういうところは「この曲のAメロで聴けるギターのアルペジオみたいな」とか「この曲のサビのコード進行の高揚感」とか、リファレンスに加えてさらに言葉でフォローを入れる必要があります。ここは相手がどういうタイプのクリエイターで、自分がリファを出したらどういう受け取り方をするかの想像が必要ですね。
 リファレンスという考え方についてひととおり説明してきましたが、いかがでしょうか?オリジナル幻想にとらわれることなく、そして、もちろんリファレンスにもとらわれることなく。新しい音楽を作るために先人の知恵に学びたいですね!

【次回予告】
次回は「コーライトのチーム作りについて」です。