「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

曲作り、どこに時間を割いて、どこに時間を割かないべきか

こんにちは、作曲家のペンギンスです。

 作曲家は、決められた制限時間の中で、いかにクライアントに響く曲を作るかが大切です。つまり曲作りをするときに、上手に時間を使うことが大切になってきます。僕も最初はそれが苦手でしたが、曲作りを繰り返していくうちに、どこに(もっと)時間を使えばいいのか、逆にどこに(必要以上に)時間を使ってしまいがちなのか、徐々に見えてきました。今日はそんな「曲作りのスケジュール感覚」について、コーライトか否かに関わらず重要な点をお話ししたいと思います。
 ちなみにこの感覚は職業作曲家として、曲をクライアントに提案する、というシチュエーションに限った場合の僕の個人的感覚なので、アーティストの場合はこだわるポイントがひとりひとり全く違うので、基準は必要ないと思いますのでご了承ください。

・あまり時間を割かない人が多いけど、もっと時間を使っていいと思うところ

1.誰にどんな曲を作るか考える時間

 これはもう・・・寝ても覚めても考えるべきです(笑)。食事しててもお風呂入っていても考えるべきです。作曲家って音楽大好きなので良い曲を作ろうとしてしまいがちですが、良い曲である以前に「求められている曲」を書くことがとても大切です。作曲家の弱点として、良い曲を書くと「こんな良い曲なら求められているに違いない!」と勘違いしてしまう習性があるんですね・・・。でもどんな良い曲であっても使いどころが無ければニーズがないので採用されません。なので「誰にどんな曲を作るか考える」ということが何よりも大切です。
 これはコンペ形式で募集があって、コンペシートという形で求められている方向性が明示されている場合もそうです。むしろコンペシートがある場合こそ徹底的にコンペシートを読み込んで、何を言っているのか、手前味噌な解釈をせずに理解することが大切になってきます。
 またコーライトの場合は、ここを考えることがディレクションの役割として非常に重要になってきます。

2.歌詞を考える時間

 作曲家にとっては受け入れがたい現実かもしれませんが、一般的にリスナーの方にとって、大切なのはメロディーよりも歌詞です。従って当然メロディーよりも歌詞に時間をかけたいですよね。ところが、作曲家は歌詞が本業ではないため、どうしても歌詞をおろそかにしがちです。「自分が得意なこと、好きなことは重要に見えて、得意じゃないこと、好きじゃないことは重要じゃなく見える」という人間誰しもが陥るバイアス(先入観)です。結果、歌詞の手を抜いて、歌詞が乗るメロディーも良く聴こえないということになります。もったいなさすぎます・・・。思った以上に、歌詞には時間をかけるべきです。
 ちなみにコーライトが有用なのはまさにこの点で、作詞家にコーライトインしてもらって歌詞を書いてもらえば、作曲家にない、「言葉の魔術師」ならではの視点とクオリティが得られます。是非作詞担当の方とコーライトしてみてほしいと思います。

3.イントロ、全体構成を考える時間

 曲を作るときに、特にメロディー重視タイプ(僕もそうです)ほど、サビを一生懸命作ります。もちろんそれは当然一番大事なことです!だけど、意外と見落としがちだったのがイントロ。よく考えてみてほしいのですが、曲が流れたとき、人が最初に聴くのはサビではなくてイントロなんですよね。つまり曲の顔です。(ならばサビを最初に聴かせればいいじゃないか、と思いついた人が始めたのがサビアタマ形式です。これもイントロの工夫のひとつという意味では変わりません)
 スケジュールを組むとき、イントロを考える時間をたっぷりと取ることは、死活的に重要だと思います。自分の経験でいっても、Aメロ、Bメロ、サビとできて、トラックメーカーが全体のアレンジを始めたものの、なかなか仕上がってこない。締め切り直前になんとかアレンジは完成したが、イントロはサビをコピペしただけだし、アウトロは存在せず・・・。そんなこともありました。ここは多少全体のクオリティが落ちてでも、締め切りまでに「パーフェクトなイントロ」を作ることが演出として絶対に必要です。何度も言いますが、最初に聴くのはイントロなんですから。
 コーライトで言うと、ここがディレクションの腕の見せ所ですね!曲の大枠が出来てきた時点で、早めにイントロの話題を持ち出して、早めにイントロのイメージを作っていくことが大切だと思います。

4.コーラスアレンジを考える時間

 プロのバンドとアマチュアのバンドの最大の違いはバックコーラスの有無だ、なんてよく言われます。それくらい「一見どうでもいいが、よくよく考えるほど大事なもの」それがハモりであり、ボーカルアレンジです。ビートルズの音源を今聴くと、メインのメロディーがどれなのかわからないくらいバックコーラスが緻密に組み立てられている、なんていうのもこれと同じ話です。
 ハモりはよく「下ハモ」「上ハモ」なんて呼び方をしますが、Aメロ、Bメロ、サビと曲が進んでいくなかで、ハモりをどれだけ効果的に付けられるかでメロディーの見え方が(つまり、曲の見え方が)だいぶ変わってきます。ポイントとしては「歌詞の内容にちゃんと寄り添うこと」と、「抜くとこは思い切って抜く」ことでしょうか。
 あと、メインメロディーに付ける「ハモ」だけではなくて、メロディーを追いかける「追っかけ」や、ロングトーンでウー、アーなどを歌う「ウーハモ」、さらにはイントロなどでコーラスだけでフレージングしたりと、声を使ったアレンジのテクニックは枚挙にいとまがありません。こういったものをうまく使うと、単にアレンジが上手い、メロがいい、歌詞がいい、といった個別要素のアピールだけでは達成できない、「歌モノとしての魅力」がグッと増します。あと当然、ソロシンガー向けの曲か、グループ向けの曲かで、物理的にできることも変わります。コーラスアレンジは、仮歌さんになんとなくやってもらうのではなく、いろいろ考える時間をとったほうがよいです!

5.ボーカルレコーディング&ボーカルミックス

 もうこれはですね、「仮歌さんと出会うための時間」からちゃんと取ってください(笑)。歌は大事です。
 良い仮歌さんと出会うための努力、次に曲に合った仮歌さんを検討する時間。さらに余裕を持ったスケジュールで、仮歌さんには事前に曲をちゃんと覚えてきてもらう。歌入れはなるべく立会いで、直接「ボーカルディレクション」(いつもこのブログで言っているコーライトのディレクションとはまたちょっと別)しながら歌ってもらう。ボーカルデータを丁寧にエディットして、メロディーが良く聴こえるようにする。。。
 いま列挙しましたが、こういったボーカルまわりの手間はかなりかかってしまうので、どうしても人間の性として楽をしたくなります。でも、ボーカル周りで手を抜くと絶対に後悔します。なので、ここももっともっと時間を使ってよいと思います。

・かなり時間を割く人が多いけど、こだわりすぎないほうがいいと思うところ

1.曲を作る時間

 曲はパパッと作りましょう!w 悩んでいてもあんまりいいことないです。1曲のワンコーラスのメロディーとコードを作るのに、僕の場合平均で2時間、かかっても3-4時間、早ければ30分くらいでしょうか。(当然、「誰にどんな曲を作るか考える」を相当やった上で一気に作るという話です)
 もちろん、これ以外のすべての時間の作業は「曲を良くするための作業」であり、曲がダメだったら全てが無意味になるので、曲を書くことは重要なプロセスなんですよ。でも・・・何百回でも言いたいことですが「重要だということと、時間をかけるということは別です」。メロディーを作る、といったような「作業時間に関係なく発想が重視されるもの」ほどパッと出てくるように訓練して、ミックスとかボーカルエディットみたいな「そりゃ、実際にマウスでポチポチする時間かかるわな、という作業」の時間にしわ寄せがいかないようにするべきだと思っています。
 コーライトでいうと、僕はトップライナー&ディレクションの役割になることが多いので、なるべく速攻でファーストデモ(メロディー&コードのシンプルなもの)を仕上げて、後続の予定に負担がかからないようにしています。

2.アレンジする時間

 コーライトの時はトラックメーカーと組むことがほとんどで、自分でアレンジを最後まで詰めることはあまり無い僕としては、コーライトメンバーに「時間をかけるな」とプレッシャーをかけているようで少し心苦しいのですが、それでもやはりアレンジは時間をかけすぎないほうがいいと思っています。
 やっぱりみんな、ミュージシャンだから、楽器や機材、好きなんですよね。なので「好きなことは重要に思える」の法則で、細かい楽器のフレーズとかにこだわってしまうケースが多いのではないでしょうか。でもやっぱり歌モノは、歌が命だと思います。楽器は脇役です。なので、歌を引き立たせるために必要な労力はかけつつも、やりすぎない、といったくらいでこの言葉を受け止めていただけたら幸いです。
 アレンジの時間をかけすぎるな、というのは決してアレンジの手を抜こうとか雑にやろうということではなくて、むしろ良く練られたアレンジのセオリーのようなものを自家薬籠中の物として、いつでも得意のアレンジパターンとして再現できるようにするというイメージです。

3.ミックスする時間(ボーカル以外)

 長くなってしまったので、簡潔にいきたいと思います。ミックスはどのトラックメーカーを見ていてもアレンジが完全に終わってからミックスを開始というようなことは宅録レベルだとあまりないですよね。DAWを立ち上げてアレンジを始めて、当然ながらある程度のボリューム、パン、コンプにEQと、アレンジしながら音作りしていきますので、最後に整えるミックスは本当に少しだと思います。なので最初から曲の完成型がしっかりイメージできていれば最後につまづくことは少ないと思いますので、曲のイメージがちゃんと見えていればここは時間をかけすぎずに済むと思います。
 ただしボーカルのバランスだけは別です。最後に2mixにリミッターを挿して、グッと音圧を上げて、ボーカルが気持ち良く聴こえてくるかという最終段階だけは、僕も結構いろいろ言います。(たいていは「もっとボーカル上げて」って言います笑)

 いかがでしたでしょうか。長くなってごめんなさい。共通点として見えてくるのは歌モノの命であるボーカルがよく聴こえること、歌詞がよく伝わること、アーティストの歌う姿が想像できること、このあたりでしょうか。コーライトのときはそこに的を絞って進めていくと、限られた締め切りまでの、限られたメンバーの時間をうまく使って、よい仕上がりにできるのではないかと思います!

【次回予告】
次回は「得意なこと、好きなこと≠重要なこと」です。