「年間100曲」ペンギンスのコーライトな日々

コーライティング(Co-Writing)で年間100曲を完成させ、職業作曲家としてメジャーアーティストに楽曲提供しているペンギンスが、毎日のコーライティングで想うことを書いてます。

事前に全部公開します!7/31開催「コンペで決まる!再生数が伸びる!あなたの曲をキャッチーにする12の方法-」教材ページ【前半】

こんにちは、作曲家のペンギンスです。

-はじめに-

本日のブログ記事は、以下のとおり7月31日に開催するオンラインセミナー「コンペで決まる!再生数が伸びる!あなたの曲をキャッチーにする12の方法-CWF presents ペンギンスTIPSシリーズ Vol.1-」の事前公開教材となっております。

既にお申し込み頂いた方は当日の受講までにこのページをご一読頂いてから参加されますと、スムーズに内容が理解でき、また事前に質問点をまとめるなどセミナーを有効に活用できるかと思います。

またこのブログ記事を読んでためになった!こう言う記事を待っていた!という方はおそらく7/31の当セミナーを受講いただきますと非常に有意義な価値を提供できると思いますので、以下のPeatixサイトから是非お申し込みをご検討いただければと思います。

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penguins-tips-vol1.peatix.com

-本文-

はじめに「キャッチーってなんですか?なんのためですか?」

キャッチー(Catchy)という英語があります。日本でも、特にポップ・ミュージックの世界で「わかりやすい、覚えやすい」という意味で使われる用語として定着しています。Catchしやすい、ということですね。

この「キャッチー」という本日のテーマについて、まず最初にお伝えしたいこと、誤解を解いておきたいことが、ふたつあります。

まずひとつめ。誤解しないでいただきたいのは「単純化された商業的な音楽だけを作りましょうと言っているわけでは全くない」ということです。キャッチーというのは「伝わるデザイン」のことだと思っています。内容が商業的かどうかは全く関係ありません。「作者が意図したことが、多くの人に無条件で伝わりやすい」ということだと思います。つまり、マニアックな音楽であっても、パーソナルな音楽であっても、キャッチーであることは決してその音楽の価値を損なうものではありません。むしろマニアックだったりパーソナルな音楽がキャッチーさを持つことによって、他にない独自の個性が広く伝わるきっかけになります。

次にふたつめ。「キャッチーにするためのTIPSに沿って曲を作れば、必ずいい曲になるわけではない」ということです。順番は、むしろ逆です。「いい曲だけどキャッチーでない曲を、TIPSに沿ってキャッチーにすることで、いい曲でなおかつ、世の中に届きやすい曲になる」という順番です。最初から何も魂や衝動、訴えたいこと、やってみたいジャンル、取り上げたいテーマなどなしに、ただ機械的にキャッチーとされる要素を詰め込んでも、うまくいきません。最初に必要なのは、あなたの初期衝動です。そういう意味では、今回の内容はシンガーソングライターなどアーティストの方にこそむしろ届けたいと思っています。

「商業的な音楽を押し付ける意図はない」ということ。「最初にまずいい曲があってこそ、キャッチーにするためのTIPSが活きる」ということ。このふたつを念頭において、以下、12のTIPSを読み進めていっていただければ、と思います。

今日ご紹介するのは、J-POP/K-POP/洋楽の数々の名曲。その中で普遍的に応用のきくエッセンスを「キャッチーTIPS」として12個、ご紹介することで、あなたの曲をキャッチーにします。なお、キャッチーかどうかの対象は、メロディーだけと誤解されることが多いですが、その限りではありません。歌詞によるキャッチーさ、アレンジ等によるキャッチーさもあります。それらを総合的に紹介できればと思います。

 

TIPS1「繰り返す-メロディーも、歌詞も、アレンジも、繰り返す勇気を持とう-」


ex)Justin Bieber「Baby」

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Justin Bieberの「Baby」のchorus(J-POPにおける「サビ」)では、「baby, baby, baby」と「baby」という歌詞が同じ音程のメロディーにのせて繰り返されます。このように繰り返すことを恐れない、というのはJ-POP/K-POP/US POP問わずポップスの基本中の基本にしてゴールです。連呼することで、人は覚えます。連呼することで、心に残ります。連呼することで、重要だ、と伝わります。

作曲家として非常によくわかるのですが、「繰り返す」という行為には「手抜きをしているかのような後ろめたさ」と「他のことも言いたい、伝えたい」というふたつの気持ちがつきまといます。しかし、繰り返すだけの価値があるフレーズを作り出すことが大切なのであり、それは手抜きではなくむしろもっとも価値の高いフレーズだけを届けるという高い技術の表れです。そして、あれもこれも伝えることはできません。TIPS2で書いたとおり「削ぎ落とす」ことが必要です。(そういう意味でこのTIPS1はTIPS2とセットと言えるでしょう)。

なお、よく聴くと「baby」という歌詞は一緒、2度で動くメロディーの音程も一緒ですが、リピートするたびに微妙にメロディーのリズム(譜割)は変わっているというのも面白いポイントです。「複数の要素(音程と歌詞)を繰り返しながら、ひとつの要素(リズム)が少しずつ変わっていく」というのは、飽きさせずに繰り返すためのテクニックと言えるでしょう。

TIPS2「削ぎ落とす-メロディーも、歌詞も、アレンジも、削ぎ落とす勇気を持とう-」


ex)Ellie Goulding「Love Me Like You Do」

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TIPS1と対を成す要素がTIPS2「削ぎ落とす」です。Ellie Goulding「Love Me Like You Do」のchorusパートでは、たった2音を行き来する超シンプルなメロディーに「Love Me Like You Do La La Love Me Like You Do」という歌詞(とその変化形のみ)が延々と繰り返されます。ごく優れた一部のパートをリフレインすることで、他のパートに必要以上に目がいかないようにする、同じ印象を多数のリスナーに与え、曲のイメージを固定する効果があります。

削ぎ落とすという意味では、存在している他のパートがどのようなものかも重要です。chorusパートを引き立てるために、楽曲冒頭のintroからverse、2nd verseと進んでいく中で、決してchorus以上のクライマックスは登場しません。全てはLove Me Like You Doを連呼するクライマックス=chorusパートへの導き、導入にすぎないのです。

曲の中に、あれもこれも、と詰め込んでいませんか。大切な要素、もっとも伝えたい箇所をみきわめ、他の箇所はすべてそれを引き立てる側にまわすことが大切です。

TIPS3「楽曲の構成を工夫する-何を最初に伝えたいか、どの順番なら伝わるか-」


ex)紅蓮華(Bメロから始まりintro-A-B-サビ)

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キャッチーかどうかは、絶対的なものでもありますが、相対的なものでもあります。1曲のなかで、静かなセクションのあとに激しい展開があれば、耳を惹きます。逆にずっと激しい展開の中で、1箇所だけ静かなブレイクがあると、ハッとさせられます。このように、全体の構成そのものが、キャッチーさを演出する上で重要です。ここ数十年のJ-POPできわめて効果的だった手法のひとつがいわゆる「サビ始まり」です。

曲のクライマックスである「サビ」を冒頭に持ってくる手法は非常に効果的であったため、多用されましたが、今ではさらにその進化形とも言える例が出てきています。そのひとつが近年「鬼滅の刃」タイアップで驚異的なヒットとなったLiSA「紅蓮華」でしょう。この曲はBメロから始まり、短いイントロを経てA-B-サビという通常の構成に入ります。この構成は、初めて聴いたとき、冒頭のBメロをサビだと思わせることによって、Aの次にサビが来たと一瞬錯覚させたのち、よりドラマチックな本当のサビがやってくる驚きをリスナーに与えます。

さらに近年では、サビを持ってくることすらまだるっこしい、とばかりに、イントロなしでいきなり歌で始まったり、歌い出しであるAメロがサビより印象的だったりという新しい次元に突入しているように思います。これらもまたサブスクリプション時代における、冒頭数秒の大切さ、という事情から生まれた、新しいキャッチーと言えるでしょう。

TIPS4「メロディーのレンジ-クライマックスを準備し、歌手に配慮する-」


ex)JUJU「やさしさで溢れるように」

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キャッチー〜伝わりやすい〜音楽をつくるために、実は相当重要なウェイトを占めているのがこの「音域」の問題であると考えています。楽器もそうですし、声はなおのことですが、あらゆる音には「適切な音域(高さ)」があります。歌手の話にしぼれば、まず「男性か女性か」という性別によってかなり歌える音域が限定されてきます。そしてそうはいっても歌は基本的に個人のものですから、ハイトーンが魅力的な男性もいれば低域を得意とする女性もいる。伝わりやすい音楽にするためには個性がよく伝わることが大事ですから、つまり歌う側の声の事情に最大限フィットした曲、メロディーであることが必要になってきます。

この「音域をフィットさせる」というのは、ともすると大ざっぱな理解にとどまりがちです。「下はA音から、上はHi-Dまで出ます」と依頼時に言われたからといって、その範囲内で曲を作っていれば良いというのはあまりにも精度の低い話です。その中で、「このあたりの音域は一番力強く出る」「このあたりは音量が下がりがちだ」といった音域ごとの得意不得意もありますし、瞬間最大風速でハイトーンが出るといっても、連打されたらどうなのか?ロングトーンで伸ばすことはできるのか?ファルセットならもっと高いところまで出るのでは?地声なら言われたレンジよりも低めで作った方がいいのでは?全ては声が出る瞬間、という「現場のリアル」に忠実であるべきです。

例えばこのJUJU「やさしさで溢れるように」では、まずA♭からE♭あたりの音域でAメロを展開させ、今度はBメロでE♭からA♭あたりの音域で徐々に盛り上げていく。そしてサビではさらに上の音域に発展させ、JUJUさんにとって一番美味しいであろうA♭からB♭あたりの音域に、「やさしさで溢れるように」というキャッチーなキーワードをもってくる・・・

いかがでしょうか?音域というものを考慮することが、声の想定、歌詞の想定、メロディー全体の枠組みの設計につながる、きわめて根本的な行為であることがおわかりいただけたでしょうか?音域は単なる制限ではありません。それが個性であり、それが伝えるべきことの軸にもなるのです。

TIPS5「リズムのメリハリ-意表をつく、音楽が止まることでキャッチーになる-」


ex)Zedd「Stay」

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「音楽の最高の効果は、流れる音の間に現れる無音の状態にある」とかのモーツァルトは言ったそうですが、これは現代の音楽にも変わらず当てはまります。現代ヨーロッパ世界のモーツァルトと言ったら言い過ぎでしょうか、Zeddの名曲「Stay」においても、dropパート(chorusのようなものだがまさに無音などを駆使することでdropさせつつ最高潮の盛り上がりとなるパート)でそれまで盛り上がってきたトラックが一気になくなり、加工されたボーカルパートのみでクライマックスが奏でられます。これなどは無音であったり、音を極端に減らすことがキャッチーさに繋がっている例と言えるでしょう。(ここでもまたTIPS2「削ぎ落とす」とリンクしていることにも注目)

ここまで極端な例でなくとも、一瞬音を抜いたり、大事な箇所の前にメロディーの長い休符をとったりするのは音楽の基本と言えます。時間の長短あれど、何もないことで興味を引きつけることが音楽の大切な構成要素と言えるでしょう。

TIPS6「メロディーのリズム-シンコペ、表拍と裏拍、4分/8分/16分-」


ex)安室奈美恵「Hope」

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ex)BTS「Dynamite」

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前半戦最後のTIPSは、メロディーのリズムに関する話です。どうもメロディーについて考察されたweb記事や書籍などをみると、音程やコードとの関係、つまり和声的な側面に偏重した研究がなされている印象を受けます。しかし、音程なしのメロディーはありえても、リズムなしのメロディーは存在しえません(1音だけではメロディーではない)。ですから、メロディーが持っているリズムについて考えを深めること、その多様性を活かすことが、キャッチーな曲づくりには欠かせません。

ここでも音域についてのTIPS4同様に、曲の構成に応じて、歌い手の個性に応じて、メロディーのリズムを使い分けるということが必要になってきます。例えば例にあげた安室奈美恵「Hope」では力強い擬似三連(四分)のサビメロを軸として、Aメロはその相似形ともいえる擬似三連を、しかし今度は低音域で展開する。Aメロ後半では一転して、休符から始まり四分音符で降りてくる展開に。Bメロでは、Aやサビの擬似三連(四分)とは異なり、転がるような真の三連(八分)でこまかくメロディーのリズムが刻まれる。。。いかがでしょうか?稀有な歌唱力を持つ安室奈美恵に相応しい、多種多様なメロディーのリズムの使い分けが自然とできているのではないでしょうか。

またもうひとつの例としてあげたBTS「Dynamite」はここ最近で一番のグローバル・メガヒットですが、こちらもメロディーのリズムの多様性が見事です。フックとなるchorusのメロディーは「'Cause I-I-I'm」と四分音符の頭拍で非常にシンプルに始まりつつ、「in the stars tonight」と16分でシンコペして終わる。verseでは休符から始まるメロディーのパターンで、8分をまじえた16分のリズムでシンコペ。2nd verse(This is getting heavy〜)からが面白いのですが、頭拍をしっかり歌いつつ、シンコペはせずに16分で刻む面白いリズムです。ここがあるからverseとchorusがうまくつながり、chorusのクライマックスが活きてくるんですね。

前半まとめ

いかがでしたでしょうか。心のこもったよい曲も、それだけでは多くの人々に説明抜き、前提抜きで伝わることが難しいのが商業音楽の常です。でもちょっとしたTIPSを実践することで、ひとつひとつの音楽の要素の魅力が最大化され、リスナーに伝わりやすくなっていくのがおわかりいただけたでしょうか。あなたの音楽を変えるのではなく、あなたの音楽を助けるのがキャッチーTIPSなのです。

では、ちょっと休憩して、後半へ。後半では引き続き様々な具体的TIPSを紹介しつつ、キャッチーさの真実にせまります!